2025.10.20
朝ドラ『ばけばけ』が楽しくなる民俗学的エピソード
目次
明治期の文人、小泉八雲・セツ夫妻をモデルにした物語
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)今年後期の作品『ばけばけ』が先月9月29日よりスタートしました。前作『あんぱん』の主人公・朝田のぶ(今田美桜)の父方の実家が石材店ということで、今年4月1日付けの本コラムで取り上げましたが、それに続く新作は、『骨董』『怪談』などの代表作で知られる明治期の文人ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の妻、小泉セツを実在モデルにした物語です(以下、ネタバレあり)。主人公・松野トキ(高石あかり)の母フミ(池脇千鶴)は出雲大社の上官の家で育ち、出雲の神々の物語や生霊・死霊の話、目に見えないモノの話に詳しく、トキが話(怪談)好きになったのもその性格を譲り受けたからでした。そのトキが英語教師レフカダ・ヘブン(トミー・バストゥ)の家で住み込み女中として働くことになり、二人とも怪談好きだったことが縁となって結婚するというストーリー展開となります。
曾孫の小泉凡氏が語る民俗学的エピソード
小泉八雲の曾孫で民俗学者、小泉八雲記念館館長でもある小泉凡氏のインタビュー記事が朝日新聞(10月11日付けの朝刊)に掲載されていました。凡氏いわく「自然と人間の間にある、踏み越えてはいけない『一線』のようなもの」があり、沖縄には神様の通り道「カンヌミツ」の伝承があること、また八雲が育ったアイルランドには「妖精の通り道、注意」という標識があることを紹介していました。「非科学的な俗信と見ることもできるけれど、いにしえから伝わる自然への畏敬の念や教訓を考察する意味は、現代でも大きいかと思います」と述べており、最後に八雲が東京帝国大学の講義で語った中から次の言葉を紹介しています。「どんなに知識の量が増えても、世界は超自然をテーマとした文学に喜びを見いだす」「霊的なものには、必ず真理の一面が反映されている。幽霊の存在が信じられなくなっても、その真理に対する人間の関心まで減少することはない」と……。
日本民俗学の祖・柳田國男との接点も
小泉八雲の旧居(跡)は、記念館がある島根県松江市のほか、熊本市や神戸市、東京都新宿区(富久町と大久保の2ヵ所)にあり、大久保には八雲終焉の地として記念公園もあります(墓地は都立雑司ヶ谷霊園=写真上)。なお成城大学には、日本民俗学の祖(開拓者)で『遠野物語』を著した柳田國男の蔵書を譲り受けた民俗学研究所「柳田文庫」があり、凡氏が同大学の卒業生であることも興味深い事実です。