2026.03.31
出雲に現存する、現世と来世の境「黄泉比良坂」
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亡き人の魂は山海の彼方へ、亡骸(遺骨)は地下へ
民俗学の父・柳田國男著『先祖の話』によると、亡くなった人の魂は、古くより故郷の山(通称「神奈備」)の頂上付近、あるいは海辺の人は海の彼方(「妣の国」)へ帰ると信じられていました。沖縄では、その常世の国のことを「ニライカナイ」と呼びます。また日本最古の書物(日本神話を含む歴史書)『古事記』や『日本書紀』の中に、イザナギ命(男神)とイザナミ命(女神)という夫婦が登場しますが、イザナミが亡くなって葬られたのは出雲にある「黄泉の国(根の国)」という洞穴でした。つまり、形のない魂は山海の彼方へ、形のある亡骸は地下へと、それぞれの自然へ帰るのです。
日本初の墓石ともいえる「千引岩」
『古事記』の中に「日本初の墓石」ともいえる千引岩の話が出てきます。イザナギは先立たれた妻イザナミを連れ戻そうと黄泉の国へ行き、再会します。しかしイザナミの亡骸は(ウジ虫が湧いて)すっかり変わり果てた姿になっており、それを見たイザナギは逃げ出します。醜態を見られたイザナミも「私に恥をかかせた」と手下の悪霊邪気に命じて追いかけさせますが、イザナギはそれを退けます。そして黄泉比良坂にたどり着くと、千人でやっと動かせる巨大な岩「千引岩」で黄泉の国の出口を塞ぎます。これが日本神話に出てくる「墓石」の始まりとされます。その岩を間に挟んで、イザナギとイザナミは最後の会話を交わすのです(以上、小畠宏允著『お墓入門』〔石文社〕参照)。
黄泉比良坂(別名「伊賦夜坂」)は島根県松江市に
この現世と来世の境「黄泉比良坂」とされる場所が、島根県松江市東出雲町にある伊賦夜坂です(写真上は伝説地石碑)。その山道の途中に塞の神(道祖神)が祀られていますが、これはイザナギが「ここから入って来てはならぬ」と言って投げた杖から出現した神とされ、地元では、ここを通る時は塞の神に小石を積んで通るのが習わしになっています。ちなみに、ここは北川景子さんの主演映画『瞬またたき』(磯村一路監督)のロケ地でもあります。交通事故で恋人を失い、そのショックで記憶を失い心的外傷後ストレス障害(PTSD)となった主人公(北川)が、記憶を取り戻す過程で「逢いたい人にもう一度逢える場所」として訪れる大事なラストシーンの舞台となったところです。お墓の役割や意味がよくわかる作品ですので、ぜひご覧ください。
