2022.07.22
凶弾に倒れた安倍元首相の「国葬」をめぐって
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国民の総意や法的根拠もないまま「国葬」決行へ
参議院選挙の応援演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の「国葬」が9月27日、東京都千代田区の日本武道館(写真上)で執り行なわれる見通しです。1926年公布の「国葬令」は第二次大戦後、1947年に失効しており、現在は国葬の対象や形式などを定めた法令は存在しません。岸田首相は、国の儀式は内閣府の事務の一つとする内閣府設置法をその法的根拠に挙げていますが、国葬に関する基準がない以上、その内容や予算などは(必要な精査はすると言うものの)実質的には政府の裁量で自由に決めることができます。国葬の費用は全額、政府負担となります。
意外にも不評だった吉田元首相の国葬
歴代首相の国葬は、戦後復興期に計7年首相を務めた1967年の吉田茂以来、2例目(吉田氏の国葬は、宗教色を排除した儀礼的なものとなり、結果的に無感動なセレモニーになった、と言われている)。安倍氏に次いで首相の連続在任期間が2番目(7年8ヵ月)に長く、日本で初めてノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相(1975年死去)は、政府・自民党・国民有志による「国民葬」でした。1980年に死去した大平正芳元首相以降は、「政府・自民党合同葬」が慣例でした。安倍氏の国葬をめぐっては、すでに社民党や共産党、れいわ新選組が反対を表明。マスコミからも、安倍氏の政治姿勢や過去の弊害(森友・加計・桜を見る会など)を挙げて、「国葬には哀悼と称賛が一体化する危うさがある」などと批判が高まっています。
国民に「自粛ムード」を促すACジャパンの広告
今回の訃報と関連して、国民の公共意識を高めることを活動目的とする民間団体「公益社団法人ACジャパン(旧・公共広告機構)」の動きも気になります。東日本大震災の発生後、「CMの内容が世間の重苦しい雰囲気に相応しくない」「企業のイメージダウンになり兼ねない」として、広告主が一斉にACジャパンの広告に切り替えたことで世間全体が半強制的に「自粛ムード」になったことは皆さんもご記憶のことでしょう。今回の事件後も一部スポンサーが自社のCMを取り止め、ACジャパンの広告に差し替えていました。安倍氏の国葬はまだ2ヵ月先ですので、当日のテレビCMがACジャパン一色になるとは思いませんが、自粛ムードは戦時下の独特な空気感に通じるものがありますので、それが「国民の公共意識」として定着することに若干の違和感や危機感を感じます。そこまで深読みするのは自分だけでしょうか。