2022.04.29
自然葬とは?種類と費用をはじめメリット・デメリットも解説します
目次
近年、日本のお墓文化は多様化の一途をたどり、従来のお墓とは異なる様式のものが多く見られるようになりました。
二世帯の家が同時に入れる両家墓や、ペットと一緒に入れるお墓、また墓石を建てずに納骨堂へ遺骨を納める方法なども、いまや広く知られる存在となっています。そんな様々ある故人の弔い方のひとつに、自然葬と呼ばれるものがあることをご存知でしょうか。
最近お墓探しをした経験をお持ちの方であれば耳にしたことがあるかもしれませんが、まだまだ一般的な認知度が高いとは言えません。
今回はそんな自然葬について、詳しく解説してまいります。自然葬に興味をお持ちの方も、自然葬という言葉を知らなかった方も、ぜひ最後までご一読ください。
自然葬とは
自然葬とは、山中の樹木の根元に遺骨を埋葬したり、海上に散骨を行うことで故人を弔う方法のことを指します。
人の手による墓石などの製作物を介することなく、大自然のなかに遺骨を還すという点が、お墓や納骨堂などに遺骨を納める方法と大きく異なります。山歩きが趣味だった方や海を愛した方にとっては、これ以上ない安息の地となることでしょう。
また、かつての日本では庶民がお墓を持つことを許されていなかった時代があり、遺体をそのまま山中に遺棄したり、海に流したりといったことが日常的に行われていたこともありました。
そういう意味では、原点に戻った追悼方法と言えるのかもしれません。
散骨とは
遺骨を土中に埋めること(埋葬)をせずに、粉々に砕いて特定の場所へ撒くことを意味します
自然葬の種類
現在の日本において自然葬を行う場合、主に次の2種類の方法から選ぶことが可能です。
●里山型樹木葬
●海洋葬
山中の樹の根元に遺骨を埋める方法を「里山型樹木葬」、海で散骨をする方法を「海洋葬」と呼びます。
最近では遺骨を宇宙へ持っていく「宇宙葬」というものも聞かれますが、まだまだ一般的とはいえず、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題も完全に解決されてはいないので、今回は里山型樹木葬と海洋葬に絞ってご紹介します。
では、それぞれの詳細を見ていきましょう。
里山型樹木葬
里山型樹木葬とは、山中の樹の根元に遺骨を埋葬する方法のことを表します。
樹木葬にはもう一つ、公園型樹木葬と呼ばれるものも存在しますが、こちらは主に大型霊園内に準備された区画で行うもので、里山型樹木葬とは区別されます。
公園型も樹木を用いる点については里山型と同様ですが、通路や水場が整備されていたり、墓石や納骨室を伴うことも多いので、自然葬とは呼べません。
ですので自然葬に該当するのは、自然の状態に近い山中の樹木をそのまま利用する、里山型樹木葬の方ということになりますね。とはいっても、山の中のどこにでも遺骨を埋めていいというわけではありません。遺骨を樹木の根元、つまり土中に埋める行為は、法律上では埋葬とみなされます。
墓地としての許可を得た場所以外でこの埋葬を行うと、違法となってしまうのです。これは、たとえ自分が所有する土地であっても同様です。
里山型樹木葬を検討する際には専門業者に相談し、墓地としての許可を受けた場所で行うようにしましょう。
里山型樹木葬のメリット
里山型樹木葬は樹木のそばに遺骨を埋めるというシンプルな方法なので、一般的な墓石の建立に比べると費用を抑えることができます。
墓地の承継をする必要のないところも多く、その場合は承継者問題や墓じまいに心を悩ませる必要もありません。また海洋葬のような散骨と違い、樹木そのものが埋葬場所の目印となりますので、従来のお墓のようにお参りをすることが可能です。
都会の喧騒から離れ、自然のままの木々や緑に囲まれて眠ることができる環境も、里山型樹木葬が持つメリットと言えるでしょう。
里山型樹木葬のデメリット
里山型樹木葬は、ありのままの自然を利用して埋葬を行うという点がひとつの特徴になります。したがって、整備された通路や各所に設置された水場など、一般的な墓地に見られるような快適設備は期待できません。
また山中に位置するため、交通の便も決していいとは言えないでしょう。山火事を防ぐために、ローソクや線香を用いることを禁じているところも多く見られます。
加えて、使用期限が設けられている里山型樹木葬の墓地では、期限終了後に遺骨がどうなるのかも必ず確認しておきたい点のひとつです。期限後に取り出された遺骨は合祀となるところも多く、遺骨を自然に還すというイメージを抱いていると、「思っていたのと違う!」という事態にもなりかねません。
これらのデメリットは、同じ里山型樹木葬でも墓地によって内容が大きく異なるので、事前に現地を訪れ、管理者からしっかりと話を伺っておくことが大切です。
海洋葬
里山型樹木葬では遺骨を山中に埋葬しますが、海洋葬では海に遺骨を撒く散骨によって故人を弔います。当然ではありますが洋上には土が存在しないので、遺骨を土中に埋葬することはできません。
そのため、散骨という方法を取るのですね。主に業者が用意する船に乗って沖へ向かい、パウダー状に砕いた遺骨を海に向かって撒く、この行為を海洋葬(海洋散骨)と呼んでいます。
海洋葬のメリット
里山型樹木葬と同じく、墓石を建てる必要がない点や、承継・墓じまいの手続きが不要ということが海洋葬の主なメリットとなります。それに加えて、管理費の支払いも必要ありません。
後々の手間や費用が一切かからないという点は、海洋葬の大きな魅力です。
海洋葬のデメリット
海洋葬を行うにあたり、最も大きなデメリットとして挙げられるのは、散骨した場所を再度訪れることがほぼ不可能であるという点でしょう。一般的な墓石や納骨堂であれば普通に行える、お参りという行為ができなくなってしまうのです。
もちろんピンポイントな場所ではなく、大まかにこの海域だろうという場所で手を合わせることはできますが、そのたびにお金をかけて船をチャーターするというのはあまり現実的ではありませんね。
つまり、海上で散骨をした時点で最後のお別れとなってしまうのです。そのため、お骨の一部を残しておいて、後々お墓や納骨堂に納める方も多いようです。
いずれにしても後悔のないよう、事前に充分検討する時間を持つようにしましょう。
海以外でも散骨はできる!散骨できる場所の種類について
実は海以外の場所でも、条件さえ整えば散骨をすることは可能です。
里山型樹木葬の章で述べたように、遺骨を土中に埋めることは埋葬という行為にあたり、これを墓地以外で行うことは法律によって禁止されています。
しかし散骨に関しては法律上で明確に述べている規定が存在せず、一部地域の条例を除いて法規制の対象外とされています。では、法律に記載がないのであれば、どのような散骨を行ってもいいのでしょうか?
決してそういう訳ではありません。一般的な節度を越えた場合や、他人の感情を著しく害してしまうと、遺骨遺棄罪として問われるケースもあります。
そうならないようにするためには、以下のような点を守る必要があります。
●人骨と認識されないよう、遺骨をパウダー状に砕く
●土の中に埋めることはせず、遺骨を撒くようにして行う
●他人の所有する土地に散骨する場合は、必ず許可を取る
●人の往来がある場所は避ける
●海へ散骨する場合は漁業が行われている海域を避け、海岸から充分離れた場所(3~5海里以上が目安)とする
●周辺住民の感情に配慮し、散骨時に喪服は着用しない
●その地域における、散骨に関する条例の有無を確認する
他にも、遺骨以外のものを撒かない(軽犯罪法、または廃棄物の処理及び清掃に関する法律に触れる可能性あり)、川や湖などの水源が近くにあり、そこへ遺骨が流入することが考えられる場所は避ける(同じく河川法施行令に触れる可能性あり)といった点にも気を付けなければなりません。
以上のように、個人で行う散骨はハードルが高く、気が付かないところで違法となってしまうケースも考えらます。基本的には専門業者に依頼するか、弁護士等への相談を介して行うようにしましょう。
【種類別】自然葬の費用
では自然葬を行う際には、どれほどの費用が発生するのでしょうか。
●里山型樹木葬
●海洋葬
前の章で紹介したこの2つの方法について、以下に費用相場をご紹介します。
里山型樹木葬
里山型樹木葬の場合、10万円~100万円ほどがおおよその相場となります。
価格の上下に開きがありますが、主に下記のような違いによってその価格差が生じます。
●一本の樹木が、一体の遺骨に対して専用で割り当てられるか複数人で共用するか
●樹木が枯れないように管理者が面倒をみてくれるかどうか
●定期的な供養が行われるかどうか
また、管理費の有無やネームプレートの作成代など、墓地によってプラスアルファの出費が必要な場合もありますので、事前に確認しておきましょう。
海洋葬
海洋葬を行う際には、海岸から離れた洋上へ出向く必要があります。その際には、海洋葬を行っている業者の用意した船やヘリコプターなどを利用します。費用としては10万円~50万円ほどかかるとみておきましょう。
以下のような条件や内容の違いによって、価格に差が生じます。
●船よりもヘリコプターの方が、一般的には高額となる
●船を使う場合、ひと家族のみの乗船か他の家族も同乗するか
●散骨時のセレモニーやその後の食事会が開催されるかどうか
もしくは業者に依頼せず、個人で船をチャーターすることも可能です。しかし場合によっては、より多くの手間や費用がかかってしまうこともあります。散骨を行う際に守るべきマナーや注意点などもあることを考えると、専門業者に依頼するほうが安心できるでしょう。
また委託散骨と呼ばれる方法であれば、費用を抑えることも可能です。これは遺族が散骨の場に同行せず、全てを業者に委ねる方法で、3万円~10万円ほどが相場となります。
委託された遺骨の数がある程度たまってから行われるので、散骨の時期が明確でないことや、その場に立ち会うことができないというデメリットがある点には注意しておきましょう。
自然葬に関するよくある質問
ここからは自然葬についてのよくある質問をご紹介してまいります。一般的にはまだあまり知られていない自然葬ですが、この機会により深い知識を仕入れてみてはいかがでしょうか。
Q. 自然葬は日本特有の文化ですか?
自然葬は、日本だけに見られる文化ではありません。特に、遺体を焼かずにそのまま埋葬する土葬のお墓を持つ文化圏では、早い段階から自然葬への移行が進みました。
これは、火葬に比べて土葬の死者一人当たりに要する墓地の占有面積が大きくなってしまうことにより、国によっては慢性的な墓地不足に悩まされてきたというのが、主な要因のひとつです。
その解決策として、火葬への移行とともに、墓地を必要としない自然葬への移行も推し進められてきたという経緯があるのです。
またそのような墓地不足などの理由ではなく、民族における習俗や宗教観から自然葬を取り入れている地域も多く見られます。
川に遺体をそのまま流す(インドのガンジス川で行われる水葬)、鳥に遺体をついばませる(チベット仏教やゾロアスター教で見られる鳥葬)、といった方法があることをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これらの例のように、自然葬は世界各地で行われています。
Q. 法律上で散骨をしてはいけない場所は決まっていますか?
法律上では、散骨をしてはいけない場所というものを定めてはいません。散骨に関する法整備が一切なされていないということが、その理由にあたります。とはいうものの、どこでも散骨をしていいと認められている訳ではないので注意しましょう。
散骨という行為自体が、場合によっては「墓地、埋葬等に関する法律」に規定されている「遺骨の遺棄」にあたり、違法となってしまう可能性があるのです。
つまり散骨は、法律的にはグレーな行為であり、節度を持って行う分には遺骨の遺棄として罪に問われることがない、という暗黙の了解のもと行われているのが現状です。
しかし遺骨を撒くという行為は、親族以外の人物にとっては決して好ましいものではありません。周辺の住民感情を逆なでする行動をとったり、他人の土地に勝手に散骨をした場合には、訴えられる可能性もあります。
そのような事態を招かないためにも、先の章で述べた「散骨できる場所の種類について」に目を通し、散骨に対する理解を深めておきましょう。
Q. 里山型樹木葬をして後悔された方はいますか?
里山型樹木葬を選んだことを後悔される方も、なかにはいらっしゃいます。その理由のひとつに、お参りをする際の難しさが挙げられます。
自然葬はありのままの自然環境を用いることが特徴ですので、多くの里山型樹木葬の墓地において整備された通路などはありません。
墓地に着いたあと、目的の樹木へ向かうために斜面を登ったり、足元の悪いところを歩かなければならないのです。
また敷地内に駐車場を備えていない墓地も珍しくなく、その場合には更に長い距離を歩く必要が出てきます。体力がある若いうちはさほど問題にはならないかもしれませんが、歳を取ってしまうとお参りをすることが難しくなってしまいますね。
そのような事態を懸念される方は、駐車場や通路が整備されている公園型樹木葬も検討してみてはいかがでしょうか。
他には、「親族の理解が得られず対立した」「改葬のために遺骨を取り出すことができなかった」といった声もよく聞かれます。
里山型樹木葬に限った話ではありませんが、故人のためを思って選んだ埋葬方法でのちのち悔やむことのないように、しっかりと親族間の話し合いの場を持ち、事前の下調べも入念に行っておきましょう。
Q. 里山型樹木葬をする際に戒名を授かる必要はありますか?
里山型樹木葬を行うにあたって、戒名を授かっていなくても特に問題ありません。そもそも里山型樹木葬であれば、故人の戒名を刻む墓碑のようなものすら無いことが普通です。
無宗教の方や特定の寺院との付き合いのない方など、戒名をもらう機会がなかったとしても、本名のまま埋葬すれば大丈夫です。
最後に
今回は自然葬に関する情報をお届けしました。
お墓を建てて故人を供養する従来の方法と、色々な面で違う点があるということがお分かり頂けたのではないでしょうか。
自然葬を検討する際には、その違いから生まれるメリットとデメリットをしっかりと把握し、理解を深めておくことがなによりも重要です。
心より安心して自然葬を行うために、本記事がお役に立てたなら幸いです。